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M&A基礎講座⑩ 価値算定のポイントを知る(2/2)

類似会社はどのように選定するのか?

類似会社をスクリーニングする際のポイントとしては、 網羅的に幅広く抽出した後、絞り込んでいくことです。 対象会社と同じ事業構成、事業エリア、 また、 同程度の規模、財務構成の企業は見つからないことがほとんどです。また、恣意性を排除しなるべく客観的な評価を実施するためには、選定において企業の抜けもれをなくす必要があります。初期段階ではある程度幅広く抽出することが重要です。

そのために、まずは評価対象会社の詳細を把握する必要があります。 具体的には、非上場企業の場合には、会社パンフレットや企業web等でその対象会社の所属業界、事業概要、 ビジネスモデル、製品、 売上セグメント (それぞれの割合)等を把握し、決算資料や試算表で直近の財務数値を確認します。また、上場企業の場合、有価証券報告書や決算発表資料等により財務数値や会社状況等を把握します。

対象会社の詳細をある程度把握したうえで、 選定 (スクリーニング) を開始します。スクリーニングを実施する際には、 各種のデータベースを使用し、対象会社と同じ業種分類に帰属する上場企業を選定します。 まったく同じ業種分類に帰属する上場企業がない場合や、絞り込んだ結果として2~3 社等少数となった場合は、対象会社のビジネスモデル等を勘案し、業種分類を広げて再選定を行います。 上記のスクリーニングで抽出した類似会社から、さらに対象会社との事業内容(製品、サービス等を含みます) 、企業規模、 商流 (バリューチェーン上の位置づけ)を比較し、絞り込みをかけていきます。類似会社のセグメント情報等を確認し、対象会社と類似の事業を主力事業としているかどうか等が判断の軸となります。その他の考慮要素として、類似会社の財務数値および株価が安定しているかどうかを考慮する必要があります。たとえば、類似会社が直近の事業年度に損失を計上しており、その影響を受けて業績予想が低く見積もられている場合等は、類似会社から外すことも検討する必要があります。また、直近株価が乱高下している場合にも、 長期安定的な株価が形成されているとは言いがたいため、 類似の選定にあたっては除外を検討する必要があります。一方、取引がほとんどなく、株価が一定期間安定している会社も市場で株価が適正に評価されていない可能性があり、その場合、除外を検討する必要があります。

以上の過程を経て、最終的には3~10社程度は類似会社として選定できるようなスクリーニングが望ましいといえます。ただし、これもケースバイケースであるため、 類似会社の数にこだわる必要はありません。実務では、以上のスクリーニングの過程から複数の基準で類似性が非常に高いと判断した企業が存在する場合、少数の類似会社に限定することもあります。一方、そこまで類似性が高い企業が見つからない場合、なるべく多数の企業を類似会社として組み入れることで、それらの企業のマルチプルのばらつきを平均化します。

割引率はどのように算定するのか?

DCF法ではWACCを割引率として用いることが一般的です。 WACCと は、株主および債権者が要求する利回り(資本コスト)を、株主資本比率と 負債比率で加重平均したものです。WACCの算定式は以下のとおりです (Equity)は株主資本や株式時価総額、D (Debt) は有利子負債の総額を用いることが一般的です。

ただし、評価対象会社が長期的に有利子負債を必要としないと見込まれる 場合、あるいは評価対象会社の類似会社の負債比率の平均値(中央値)が0 に近い場合には、Dを0と置き、割引率を株主資本コストとする場合もあります。

WACC=株主資本コスト×-E÷(D+E)+負債コスト × ( 1 - 実効税率) × D÷(D+E)

1.株主資本コストの算定

株主資本コストは株主が企業に要求する利回りのことです。 実務上は、 CAPM (Capital Asset Pricing Model) 理論に基づき算定します。 CAPMは以下の式のとおりです。

株主資本コスト=無リスク利子率 + ベータ × 市場リスクプレミアム

無リスク利子率とは、安全資産に対して投資家が要求する利回りのことです。実務上は、取引量が多く市場環境を最も織り込んでいるとされる10年物国債の利回りを用いることが多いようです。

市場リスクプレミアムとは マーケットポートフォリオ (TOPIX等) の期待利回りから無リスク利子率を減じて算出します。 言い換えれば、投資家が株式というリスク商品に投資する見返りに、追加で要求する利回りであると解釈できます。 実務上は、市場リスクプレミアムを 5~6% に設定しています。当然、市場環境の変化に伴い、市場リスクプレミアムは定期的に見直します。

β とは、ある上場企業の株価がマーケットポートフォリオの指数と比較して、市場環境の変化に対してどの程度敏感に反応するかを示した指標です。

上場企業の株価変動率とマーケットポートフォリオの指数変動率について回帰分析を行うことで、 β (直線の「傾き」) を算定します。 なお、近年ではデータベース等を用いて簡単にβを取得することが可能です。

DCF法で株式価値を算定する際に用いる β は、評価対象会社と事業内容、 事業エリア、規模、財務構成等が類似した企業のβの平均値(中央値)を採用することが一般的です。 ただし、市場で観測される βは、 各企業の資本構成に応じたリスクを反映しているレバードβ であるため、上記リスクの影響を取り除いた アンレバード β (100% 株主資本のみで資金調達が行われたと仮定した場合のβ) に変換したうえで平均値(中央値)を算出する必要があります。その後、評価対象会社や類似会社の資本構成に基づき、上記で算出したアンレバード β の平均値(中央値)を再度レバード β に変換することで、資本構成に応じた リスクを再反映します。

そのほか、評価対象会社が中堅・中小企業である場合、一般的に大企業よりもリスクが高いと判断し、CAPMで算出された株主資本コストに小規模リスクプレミアム (数パーセント程度)を加算することがありす。

2.負債コストの算定

負債コストは債権者が企業に要求する利回りのことであり、借入金の金利 や社債の利回りに相当するものです。 負債コストの算定方法としては、評価 対象会社の格付および社債スプレッドから算定する方法と過去の有利子負債 に対する支払利息および有利子負債残高から算定する方法があります。 前者の方法は、評価対象会社が格付機関 (Moody's、S&P、JCR 、R & I ほか) から格付を取得している場合、同格付における社債スプレッドに無リスク利子率を加算して負債コストを算定します。

後者の方法は、評価対象会社の支払利息を有利子負債残高(一般的には期中残高(期初残高と期末残高の平均値) とします)で除すことで、負債コストを算定します。この方法は、格付を取得していない企業であっても、過去の財務諸表の内容を基に簡単に算定できますが、現時点での市場環境や評価対 象会社の信用力を考慮できていない点については留意が必要です。

また、負債コストは借入金や社債に対する利息の支払いであるため、株主 資本コストと異なり税務上損金算入することができます。したがって、負債コストに実効税率を乗じた金額分だけ税金の支払いが減少します(節税効果)。 この節税効果について、WACC上は負債コストに (1-実効税率) を乗じることで考慮します。

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